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お役立ち医療コラム

いまを生きぬくメンタルケア
第24回 職場環境の変化と抑うつ症状

更新日:2017年5月22日

山田和夫
東洋英和女学院大学 人間科学部教授
横浜尾上町クリニック 院長

山田 和夫 先生

「5月病」という言葉があるように、5月は新たなスタートをきった人たちの心がちょっとお疲れになることが多いようです。今回のコラムは、SAD(社交不安症)の精神療法シリーズをお休みして、環境の変化からうつ病となった方の症例をもとに、山田先生にお話しいただきました。今回ご紹介する例は、決して珍しいことではないことをご理解いただいたうえ、お読みください。

転勤うつって


春は、入学や入社などにより、これまでとは異なる環境で新たな生活を始める方も多いことと思います。この時期になると、私は「転勤うつ」が気になってしまいます。
おもに新入社員などがかかる適応障害を「五月病」といい、こちらについては企業も注力していますが、仕事にも慣れ、ある程度責任ある立場にいる社員のメンタルヘルスについては、周囲も気にかけないことが多いように思われます。

転勤うつは五月病同様、新しい職場環境、人間関係、生活環境にうまく適応できずに、そのストレスが蓄積していくことで、神経が疲労してしまう病気です。また、転勤に伴い単身赴任になったケースでは、家に帰っても会話がなく、食事も味気なく、孤独を加速することもあるでしょう。
以前、私のクリニックにいらした患者さんのケースもそうでした。


ベテラン社員、Aさん(50歳)の場合



私のクリニックにいらっしゃったときに50歳だったAさんは証券マン。ベテラン社員です。
そんなAさんは、地方の支店で長く勤務し、その地で家を購入し、夫婦と子ども2人で穏やかに暮らしていたところ、大都市圏の支店への転勤が決まったのです。新たな勤務地へは単身赴任することになりました。

転勤先でのAさんの役職は、「営業課長」。自らも営業活動をしながら、部下の面倒も見なくてはならない立場です。転勤先の支店では個人のお客様ではなく、法人、大企業の重役クラスを相手に営業することとなりました。これまで企業を牽引してきた自負のあるお客様からの質問や依頼は、鋭く厳しいものばかりで、常に世界の経済動向にピリピリとアンテナを張り巡らさなければなりませんでした。

これまでの経験では補いきれない仕事内容の変化に、戸惑いと緊張、不安を感じましたが、大きなやりがいも感じていたそうです。ところが、やる気とは裏腹に、顧客と馴染むことができずに、Aさんの戸惑いや緊張は増していきました。こんなとき経験の浅い社員ならば、周囲もその様子をみて、アドバイスなどをすることもあったでしょうが、ベテラン社員のAさんには、上司も信頼を寄せて仕事を任せきっていました。結果、Aさんは消化できないストレスを抱え込むようになっていったのです。

週末は家族のいる自宅に戻り、月曜日には早起きし2時間かけて出勤していたのですが、やがて月曜日の朝、からだが重たく感じられ起きるのがつらくなっていったそうです。
何とか出勤しても、午前中は活字も目に入ってこないような状況でした。
倦怠感と食欲不振が強くなってきたため、内科を受診しましたが、多少肝機能が低下している程度でこれといった病気はありませんでした。
しかし、Aさんの不調は強まるばかり……1カ月で体重は4kgも落ちました。

うつ病は神経の疲れ


その後、Aさんは私のクリニックに紹介されてきました。診断の結果、Aさんは、転勤をきっかけにした適応障害的なうつ病でした。仕事だけではなく、初めての単身赴任生活も大きなストレスになったものと思います。

Aさん本人は、自分がうつ病になるとは考えたこともなかったようで、非常に驚いていましたが、「大変でしたね、つらかったですね」という私の労いの言葉に、ほっとされたようです。

うつ病の診断も高血圧症や脂質異常症のように診断基準となる数値があればわかりやすいのですが、うつ病を数字で表すことはできません。
ただ、うつ病の状態を、体温であらわしたら「38度5分」くらいの熱があるということを覚えておいてください。
自分がうつ病になったとき「うつ病は38度5分の熱がある状態」ということを思いだし、しっかり休養をとってください。また、ご家族がうつ病になったら、十分に休養できるようサポートしてあげてください。

うつ病は心の病気ですが、神経の疲れというからだの病気でもあるのです。神経が疲れていると十分な睡眠をとることができないのです。Aさんにもこのようなことをお話し、ご理解いただきました。

薬物治療としては抗うつ薬を処方し、「眠れない」「早朝に目覚めてしまう」などの症状がみられたため、睡眠導入剤も処方しました。
「1カ月の休養・加療が必要」と診断し、会社も休んでもらいました。予定より少し時間がかかりましたが、現在は復職し、自信を取り戻し働いています。
クリニックには定期的に通院してもらい、薬の服用も継続中です。ただし、Aさんの症状は落ち着いていますので、そろそろ治療も終了と考えているところです。

転勤という環境の変化によって生じるうつ病は、会社勤めの人ならば誰もがかかり得る身近なうつ病です。思い当たる状況、症状があれば、早めに精神科の専門医を受診してください。


山田和夫先生プロフィール

医学博士・精神科専門医・精神保健指定医
昭和56年横浜市立大学医学部医学科卒業。昭和62年同大学医学部神経科医局長、平成元年研水会平塚病院副院長、平成10年横浜市立大学医学部附属病院浦舟病院神経科部長、平成12年同大学医学部附属市民総合医療センター精神医療センター部長(助教授)を歴任ののち、平成15年和楽会横浜クリニック院長に就任。平成25年5月に横浜尾上町クリニックを開院。
また、平成14年より東洋英和女学院大学人間科学部の教授を務めている。
日本不安障害学会理事、日本うつ病学会監事、日本総合病院精神医学会評議員等を歴任。
主な著書に『現代精神医学事典』(共著)、『誰もがかかる心の風邪「うつ」の最新治療情報』、『精神科医からのメッセージ 不安・うつは必ず治る』など多数


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2018年12月1日
りょう さん

「かんたん健康レッスン」は、いつも参考にさせていただいております。vol.75「子どもの体力は下「がっているの?」のなかで、「疲労からの回復力」や「柔軟性」が、体力として広くとらえられていることに共感いたしました。体力の低下と言えば、すぐ「鍛えなければ」との思いがわきがちですが、野外での遊びの中から愉しく身につけていくものであることが、よくわかりました。



2018年2月26日
りょう さん

かんたん健康レッスンvoL.68「腸内温度に気をつけよう」は、普段の生活の中ではともすると見逃してしまう視点であり、私の生活習慣を見直すひとつの契機になりました。ありがとうございました。今後とも、このような新しい知見をわかりやすく教えてください。



2017年3月26日
りょう さん

 森田正馬は、自己の体験をもとに、神経症を精神の病でなく自己理解の誤りから生じていると喝破した。たとえば書痙は、文字を書こうとすると手が震えたり強直して書けなくなることで、神経症の一つとされているが、結婚式等の列席者名簿に改めて名前を書こうとするとき、緊張してうまく書けない経験は多かれ少なかれ誰しもあるだろう。普通はその違和感を忘れてしまうのだが、完璧を目指す神経質者はそれに拘り、あってはならないこと、なくそうなくそうとして返ってその違和感が固着する。もともと病ではないのだから、軽症の場合は、森田療法関連の本を読むだけで解決するケースも多く、私もその一人です。

2013年2月1日
まめるりは さん

こんにちは。いつも勉強させていただいています。

今回のさかい先生の「ヒートショック」は怖いなあと思いました。

実家のお風呂場がまさに危険な「窓あり」「タイルの床」で茶の間に比べて異常に低温ゾーンです。

リフォームするのは大げさですが、気温差がなくなるようにシャワーでお湯をためたりとするよう伝えたいと思います。

 

まめるりはさん

ご投稿ありがとうございます。

ヒートショック、怖いですよね。家の中の危険ゾーンを極力減らして、安全にお過ごしくださいませ。

(Health Scramble運営事務局)

2013年1月22日
小春 さん

うつ病について、知っているようで知らないことがいっぱいありました。

最近、意外と身近にうつ病で悩んでいた人がいることにびっくりしています。

みんな、少し良くなってから「実は」と教えてくれます。

もっと、つらいときに気づいてあげられたらと思います。

このコラムを読んで、うつ病について、勉強していきたいです。

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