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お役立ち医療コラム

いまを生きぬくメンタルケア
第14回 なぜ人は不安になるのか

更新日:2015年4月15日

山田和夫
東洋英和女学院大学 人間科学部教授
横浜尾上町クリニック 院長

山田 和夫 先生

前回のコラムでは、SAD(社会不安障害/社交不安症)という病気と性格としてのあがり症の違いについて山田先生にお聞きしました。今回はなぜSADでは、日常生活に支障をきたすほどの不安に襲われるのかを教えていただきます。

不安や恐怖はどこからやってくるの?

不安や恐怖に襲われて背筋がぞわぞわすることがありますが、背中に恐怖を感じるセンサーがついているわけではありません。私たちが感じる不安や恐怖は脳によって生み出されています。このような感情はできれば味わいたくはないのですが、実は不安や恐怖は私たち生き物が危険から身を守るためには必要な本能なのです。

現代では、日常生活において命の危険を感じることはほとんどありませんが、人類の歴史を考えてみると、長い期間にわたって死は身近な存在でした。狩猟によって食料を確保していた時代には、狩りのときに命を落とす人もいました。このような経験から危険なものをいち早く知り、対応する能力が身についていきました。私たちの祖先が経験し学習した不安や恐怖の記憶が、現代人の私たちの脳にも残っているのです。


私たちは脳の扁桃体という部分で危険を察知すると、不安や恐怖といった感情が生みだされます。すると、身体反応として脈や呼吸が速くなったり、冷汗をかいたりします。扁桃体が察知した不安や恐怖を感じる状況などは、記憶をつかさどる海馬に蓄積されます。そして、同じような状況に出遭うたびに、海馬から扁桃体に「気をつけろ!」というシグナルが送られて、不安や恐怖が蘇るのです。

不安や恐怖は一概に忌み嫌うものではありませんが、あまりにも敏感すぎると日常生活に支障が及びます。

不安は交感神経を優位にさせる

先ほど、扁桃体で危険を察知すると、脈が速くなるなどの身体反応が起こるとお話しましたが、このとき、私たちの脳からは自律神経にある指令が出ているのです。

自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経が優位になると、血圧を上げたり動悸を速めたりします。副交感神経が優位のときは、血圧も下がり、動悸も穏やかになります。就寝時などリラックスした状態のときは副交感神経が優位になっています。危険を察知したときに、扁桃体からの指令を受け、優位になるのは交感神経です。危険なものから逃げるために! もしくは危険なものと闘うために交感神経ははたらきます。

ですから、扁桃体が危険を察知しているような状況に置かれている時間が長いと、常に交感神経が優位な状態となってしまい、心身共に緊張を強いられることになり休むことができません。

内気な性格は不安に対して敏感

前回のコラムでもご説明しましたが、不安を感じやすい性格と病気であるSAD(社会不安障害/社交不安症)の間には、歴然とした違いがあります。しかし、SADの患者さんの多くにみられる性格的な傾向というものがあり、それはSADの発症とも関連があるといわれています。たとえば、次のような傾向です。


このようなタイプの方たちは、不安や危険に対してとても敏感です。扁桃体で危険を敏感に察知してしまうために、交感神経が優位になっているかもしれません。

SADの方は、危険の予測を扁桃体が感じやすいだけではなく、脳内の神経伝達物質のセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンのバランスが崩れていると考えられています。セロトニンという物質は心を安定させるはたらきがあり、分泌量が少なくなると、不安や恐怖を感じやすくなるといわれています。ドーパミンは分泌量が低下すると、意欲が低下し社会的な活動ができなくなります。また、ノルアドレナリンは積極性を生み出す物質ですが、過剰に分泌すると、不安などを引き起こす原因となります。SADに対する治療薬はこれらの神経伝達物質にはたらきかけ、バランスを整えていくのです。

山田和夫先生プロフィール

医学博士・精神科専門医・精神保健福祉指定医
昭和56年横浜市立大学医学部医学科卒業。昭和62年同大学医学部神経科医局長、平成元年研水会平塚病院副院長、平成10年横浜市立大学医学部附属病院浦舟病院神経科部長、平成12年同大学医学部附属市民総合医療センター精神医療センター部長(助教授)を歴任ののち、平成15年和楽会横浜クリニック院長に就任。平成25年5月に横浜尾上町クリニックを開院。
また、平成14年より東洋英和女学院大学人間科学部の教授を務めている。
日本不安障害学会理事、日本うつ病学会監事、日本総合病院精神医学会評議員等を歴任。
主な著書に『現代精神医学事典』(共著)、『誰もがかかる心の風邪「うつ」の最新治療情報』、『精神科医からのメッセージ 不安・うつは必ず治る』など多数

【参考書籍】
『図解やさしくわかる 社会不安障害』山田和夫著(ナツメ社/定価1,400円+税)


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2019年8月22日
りょう さん

 今回のかんたん健康レッスンvol84「その痛み、気象病かもしれません」は大変示唆に富んだ提言だと思います。来年のオリ・パラは、今からでも遅くない、秋に開催すべきであると、切に思いました。

2019年8月2日
ブラック さん

睡眠時無呼吸症候群って最近TVでも話題にされる疾患ですね。身近な人もこの疾患で治療していたこと聞きました。自分ではなかなか気づかない怖い病気ですね。

2018年12月1日
りょう さん

「かんたん健康レッスン」は、いつも参考にさせていただいております。vol.75「子どもの体力は下「がっているの?」のなかで、「疲労からの回復力」や「柔軟性」が、体力として広くとらえられていることに共感いたしました。体力の低下と言えば、すぐ「鍛えなければ」との思いがわきがちですが、野外での遊びの中から愉しく身につけていくものであることが、よくわかりました。



2018年2月26日
りょう さん

かんたん健康レッスンvoL.68「腸内温度に気をつけよう」は、普段の生活の中ではともすると見逃してしまう視点であり、私の生活習慣を見直すひとつの契機になりました。ありがとうございました。今後とも、このような新しい知見をわかりやすく教えてください。



2017年3月26日
りょう さん

 森田正馬は、自己の体験をもとに、神経症を精神の病でなく自己理解の誤りから生じていると喝破した。たとえば書痙は、文字を書こうとすると手が震えたり強直して書けなくなることで、神経症の一つとされているが、結婚式等の列席者名簿に改めて名前を書こうとするとき、緊張してうまく書けない経験は多かれ少なかれ誰しもあるだろう。普通はその違和感を忘れてしまうのだが、完璧を目指す神経質者はそれに拘り、あってはならないこと、なくそうなくそうとして返ってその違和感が固着する。もともと病ではないのだから、軽症の場合は、森田療法関連の本を読むだけで解決するケースも多く、私もその一人です。

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