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『馬場あき子の「百人一首」』

2017年1月18日

依存症

馬場あき子著

NHK出版 

1,700円(税別)

近年、漫画『ちはやふる』が映画化もされ、競技かるたへの関心が高まっています。その影響か、「百人一首」に親しむ人も増えているのだとか。今回紹介する1冊は、百人一首の解説本です。学校の授業で習ったときには、古めかしく感じていた和歌も、当代随一の歌人、馬場あき子の解説で読むと、すんなり心に落ちてきます。

千年前の人たちも同じように、桜の花を美しいと感じ、紅葉の秋にはセンチメンタルになっていたのです。そのなかでも、とくに現代に通じるものとして「恋の歌」を少し紹介します。お雛様のような穏やかな顔の平安時代の人々がどのように恋に歓喜し、懊悩していたかが、三十一文字から伝わってきます。




1 しのぶれど色にいでにけりわが恋は物や思ふと人のとふまで  平兼盛

2 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人しれずこそ思ひそめしか 壬生忠見

1も2も、人知れず相手を想う「忍ぶ恋」を詠んでいます。
1は、バレないようにしていたけど、あの人を愛する気持ちが顔にでてしまった。「誰のこと考えているんですか?」と人に聞かれるほどまで! という内容です。内緒にしているつもりでも、心ここに在らず、好きな人を思い浮かべてぼんやりしていたんでしょうね。よくあることです。

2は、私が恋をしているという噂がもう立ってしまった。人に知られないように大切に想っていたのに! という内容です。

この2つの歌は平安時代中期、960年3月に催された「歌合(うたあわせ)」に提出されたものです。「歌合」とは、出題されたテーマにそって、当代きっての歌人が歌を詠み、その優劣を競うものです。このときの歌合では、1の平兼盛が勝利をおさめていますが、解説で馬場は「今日からみても勝劣がむずかしい名歌」と述べています。確かにどちらもしみじみと恋する心を伝えています。
「忍ぶ恋」なのですから、何らかの障害があったり、片思いだったりしたのでしょう。そんな恋に身もだえする平安時代の貴公子たち。いまだったらワイドショーのネタになるような不倫の恋だったかもしれませんが、当時は婚姻制度も違いますので、目くじら立てないでくださいね。恋に身をやつす貴公子たち、なんだか身近に感じられませんか。

一方、女子の「忍ぶ恋」の代表は次の一首ではないでしょうか。

3 玉のをよたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする 式子内親王

この歌の作者は、後白河天皇の娘さん。10歳で斎院(現在の下鴨神社、上賀茂神社の両神社に奉仕した皇女のこと)になり、10年ほど勤めました。つまり、青春時代を神にささげている女性なのです。
この歌の恋の相手は、藤原定家といわれています。
秘めた恋の苦しさで、細っていく玉の緒(いのち)。死んじゃうなら死んでもいい! だって、この恋を胸に秘めたまま生きていくことなんてできやしないんだから! という内容です。
この歌は、抑制が効いた表現になっていますが、隠しきれない情念の激しさが伝わってきます。こんな激しい気持ちを女性からぶつけられたら、男冥利に尽きますね。それとも、逃げ腰になっちゃいますか?

馬場は解説で、「玉のをよたえなばたえね」には、人に知られることで穢れてしまう純粋な愛の美しさへの哀惜があると述べています。当時は、恋のもっとも純一な美しさは「秘め忍ぶ恋」にあると考えられていたそうです。それに対し、馬場は「自分一人の心の内に、創出され、培われていく理想と言いかえてもよい恋である。豊かであるがさびしい。永遠に叶わぬものを求める人間の『あわれ』でもある」と考えています。

恋とは、人の心を豊かにもし、さびしがらせもするのです。そんな恋ならしないほうが心穏やかに暮らせるかもしれません。しかし、人はだれかを求めてしまう……だからこそ、人は哀れで愛おしいのでしょう。百人の和歌とその解説が収められたこの書籍は、どこから読んでも人間らしい心に触れられます。

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馬場あき子(ばば・あきこ)1928年 東京生まれ。短歌結社「かりん」主宰。常に短歌界をリードする活躍をする一方、能、民俗学への造詣も深く、また古典評論の著述も多い。主な歌集に『混沌の鬱』『記憶の森の時間』『太鼓の空間』など。主な著書に『式子内親王』『歌説話の世界』『鬼の研究』『穂村弘が聞く馬場あき子の波乱万丈 寂しさが歌の源だから』など。日本芸術院会員。朝日新聞歌壇選者。



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2016年6月29日
りょう さん

アドラー心理学が注目されているようですね。「嫌われる勇気」という言い回しが現代受けするからでしょう。その根底には、目的論があり、西洋は依然としてこの2項対立構造から脱していない。親鸞の「悪人正機説」を2項対立的に受け止めてはいけないように、「利己的な私は嫌われても仕方がない」という自覚が根底にないと、厚顔無恥な人間ばかりを生み出すように思われる。

2016年3月8日
事務局 さん

小春さん

こんにちは。

紹介した本にご興味をもっていただいてありがとうございます。

親子の間では、照れくさくて優しい言葉をかけにくいものですが、大きな病気をした人の気持ちを思いはかり、寄り添うことは大切なことですね。

また、本を読んだら、感想をお寄せください。


事務局

2016年3月8日
小春 さん

『親ががんになったときに読む本』もう少し早くに出版してほしかったです。

母ががんになったとき、医師とのパイプ役はがんばって務めたつもりですが、がんになった親の気持ちにまでは寄り添えなかったかもしれません。

反省を込めて、読んでみようと思います。

2014年3月4日
小春 さん

『イラクサ』というタイトルから、ひと癖もふた癖もありそうな小説ですね。

読んでみようと思います。

2013年4月2日
さと ちゃん

池上さんの番組は非常にわかりやすいなぁと思っていましたが、

伝え方がよいのかもしれませんね。

自分でも日常生活で「伝えたつもり」で失敗することがあります。

せっかくご紹介いただいたので、手に取って読んでみて、

今後に生かせればいいな。

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